20代後半になるまで、他人と握手をするのが無性に嫌だった。
物心ついたときには、家族と手をつなぐのも本当は好きでないことに気が付いて、
なぜ友達や家族の体に触れるのが(というよりは、自分の体に触れられるのが)
嫌なのだろうかとよく考えた。
美容師に髪を触られるのも嫌だったので、長い間自分で髪を切っていた。
他人に触れられると、相手の感情が伝わるような気がしていた。
家族同士、友達同士だと自分が飲食している物を気軽にすすめる人がいるが、
私にはそれも受け付けられなかった。食器を変えても駄目で、それは未だに
少々抵抗が残る行動の一つだ。
ただ、同じ食べ物を分け合ったり、気軽に体に触れ合ったりする人達のことは
うらやましかった。
自然に体に触れたり、自然な気安い言葉で応答し合える普通の人達に私も
なりたかった。
私から出てくる言葉は、ほとんど全て頭の中で考えて一呼吸置いてから出された
ものだ。間違いがないかどうか頭の中でまとめて確認できないと、言葉が出てこない。
他人から話しかけられたとき、私は見かけより苦労して言葉を搾り出している。
それほど考えあぐねても、私の言うことは大概突飛で、変わり者と評価された。